Neumann TLM 67を購入してから、おそらく3〜4年ほどになります。
僕にとってTLM 67は、初めて購入したいわゆる「高級マイク」でした。それ以前にも比較的安価なコンデンサーマイクを何本か使ってきましたが、録った音をミックスの中でうまく扱えず、マイク選びに悩んでいた時期があります。
そこで、普段からお世話になっている作曲家の先生に「どのマイクを買えばいいか」と相談したところ、候補の中で太鼓判を押してくれたのがTLM 67でした。
当時は自分自身、「こういう音のマイクが欲しい」という明確な基準をまだ持っていなかったので
「信頼している先生が言うなら間違いないだろう」と購入しました。
そして実際に数年間使ってきた今の印象を一言で表すなら、
「派手ではない。でも安定感があって、艶のある落ち着いたマイク」
です。
正直、誰にでも分かりやすくおすすめできるマイクではないとも思っています。一方で、アコースティックな曲やオーガニックなサウンドを録るときには、今でも非常に魅力を感じるマイクです。
Neumann TLM 67とは
TLM 67は、Neumannの名機U 67から着想を得て開発されたラージダイアフラム・コンデンサーマイクです。

真空管ではなくトランスレスのソリッドステート回路を採用しながら、Neumann自身もU 67を意識した中域のキャラクターを特徴として挙げています。無指向性・カーディオイド・双指向性の3つの指向性に対応し、ローカットとPADも搭載しています。
ただし、この記事ではスペックそのものよりも、実際に数年間ボーカルとアコースティックギターを録ってきてどう感じたかを中心に書いていきます。
TLM 67を購入した理由
購入の候補に挙がった理由はいくつかあるのですが
・秦基博さんが自宅で使ってるらしい
・U87Aiより少し安い
・定番ど真ん中はちょっと……
・ノイマンさんの記念エンブレムが入ってるくらいだからきっとTLMの本命なんだろうという勝手な予想
押して最後には前述のとおり、お世話になっている先生がGOサインを出してくれたので買いました。
第一印象は「ずいぶん地味な音だな」
高級なマイクを初めて購入したので、当然ある程度の期待はありました。
ところが、最初に録音して最初の感想は
「すごく地味な音がするな」でした。
高価なマイクを買ったからといって、録音した瞬間に「うわ、すごい!」と感動するような感じではありません。
……いや、厳密に言うと感動はありました。
低価格マイクにありがちな中低域のスカスカ感は全くありません。
とても太く暖かな音です。
あまりに綺麗にまとまっていて、地味に聞こえたと言いますか……
ただ、その地味さの中に不思議な安心感があります。
今振り返ると、TLM 67の良さは「最初から派手に完成された音を出すこと」ではないと思っています。
87系とはかなり違う。最初から「かっこいい音」ではない
僕は87系のクローンマイクも使った経験があります。
87系の音には、録った瞬間からそれらしい格好良さを感じます。
マイクそのもののキャラクターがいい方向に働いて、ポンと録っただけでも「もうそれっぽい」という印象を受ける。
一方、TLM 67にはそれとは違った感覚があります。
録った瞬間から完成された格好良さが付加されるというより、もっと素の状態を録っているように感じます。
これは長所でもあり、人によっては物足りなく感じる部分でもあると思います。
音楽のジャンルによりますが「高いマイクを買えば、録った瞬間から気持ちのいい音になる」と期待しているなら、TLM 67を最初に聴いたときは拍子抜けするかもしれません。
オーガニックな曲では一気に魅力が出てくる
ではTLM 67の何が好きなのか。
数年間使ってきて特に感じるのが、
アコースティックでオーガニックなサウンドとの相性の良さです。
激しいロックや、バキバキに作り込んだトラックの中で強い存在感を出したい場合には、別のキャラクターを持ったマイクを選びたくなることがあります。
一方で、アコースティックな編成や、音数にある程度余白のある曲では非常に気持ちがいい。
僕がTLM 67に感じているのは、
- 安定感
- 太い
- 少し艶っぽい質感
- 音の広がり
といった部分です。
秦さんが使っているというのも納得な気がします…
もちろんこれは測定したとかではなく、実際に自分が録音してきた中で感じている主観的な印象です。
ボーカルは「声質より曲」で選ぶことが多い
僕がTLM 67で主に録っているのは、ボーカルとアコースティックギターです。
ボーカルについては、「この声質には絶対に合う」「このタイプの声には合わない」という印象はあまりありません。
少なくとも自分が使ってきた範囲では、かなり幅広い声を普通に録れます。
それよりも重要なのは曲との相性だと思っています。
同じボーカリストであっても、派手で前に押し出したい曲なのか、落ち着いたオーガニックな曲なのかでマイクを変えたくなる。
TLM 67の場合は後者で選びたくなることが多いです。
「この声ならTLM 67」と考えるより、
「この曲ならTLM 67」
という選び方のほうが、自分の感覚には近いです。
使ったオーディオインターフェースとマイクプリ
録音では、RME Fireface UCX IIをオーディオインターフェースとして使用しています。
TLM 67については、これまで主に以下のマイクプリアンプとの組み合わせを試してきました。
- Heritage Audio HA-73 EQ Elite
- Heritage Audio LANG 312L
- AMEK System 9098 EQ
- Rupert Neve Designs 511
HA-73 EQ EliteとLANG 312LについてはHeritage Audio公式、511についてはRupert Neve Designs公式でも現行製品情報を確認できます。
この4種類を使ってみると、当然ですがマイクプリによって音はかなり変わります。
ただし、プリを変えてもTLM 67そのもののキャラクターが消えてしまうわけではありません。
プリの個性はしっかり出る。それでも、その下にはTLM 67の落ち着きや艶が残っている。
そんな印象です。
素直にプリの特性が出るのはTLMだからなんて聞きますがどうでしょうかね。
AMEK 9098 EQとの組み合わせ
AMEK 9098 EQとの組み合わせは、かなり個性的でした。
自分の感覚では、
「つやつやしていて、良いサチュレーション感がある」
という印象です。
少し大げさに言えば、平成のバラードを録りたくなるような音。
そのため、バラードやポップスなど、あまりスピード感を前面に出さない楽曲で使うことがありました。
TLM 67自体の落ち着いた方向性に9098のキャラクターが加わることで、かなり色気のある音になる印象があります。
Heritage Audio HA-73 EQ Eliteとの組み合わせ
HA-73 EQ Eliteと組み合わせると、ぱっと聴いた瞬間にかなり格好良く感じました。
ロックのようにある程度押し出しの強さが欲しい場面なら、この方向がハマる可能性はあると思います。
ただ、少し腰が高いような感じもしたので、その辺はHA-73の音なのかなあとか思ったりしています。
LANG 312Lはアコギのストロークで好印象
アコースティックギター、とくにストロークを録るときにはLANG 312Lを使うことがあります。
元気や勢いが欲しい音源では、この組み合わせが好印象でした。
TLM 67の落ち着いたキャラクターを土台にしながら、もう少し前向きなエネルギーを加えたい。
そういうときに選びやすい組み合わせです。
Rupert Neve Designs 511はかなり万能
4種類試した中で、特に「普通に良く録れる」という安心感が強いのがRupert Neve Designs 511です。
ボーカルをはじめ、特別な狙いがなければ511でかなり幅広く対応できる印象があります。
何か極端なキャラクターを作るというより、
「とりあえずこれで録れば大きく外さない」
という感覚です。
TLM 67自体にも安定感があるので、511との組み合わせは非常に使いやすく感じています。
良かったところ1:落ち着きと艶・太さ
TLM 67で一番気に入っているのは、この質感です。
派手に高域を目立たせて「良い音」に聴かせるタイプとは少し違う。
落ち着いているのに、ただ暗いわけでもない。
そこに少し艶っぽさがあり、音に広がりを感じます。
この質感がアコースティックな曲には非常によく合います。
良かったところ2:プリを変える楽しさがある
マイクプリの違いもかなり反映されます。
9098 EQなら艶っぽい方向。
LANG 312Lなら元気が欲しいアコギ。
511なら万能。
HA-73 EQ Eliteなら、より派手で押し出しのある方向。
TLM 67自体の土台を残したまま、前段によって方向性を変えられるところは、いろいろなマイクプリを使うようになってから特に面白く感じています。
良かったところ3:数年使っても評価が大きく変わらない
購入当初の印象は「地味」でした。
そして数年間使った今も、ある意味その評価は変わっていません。
ただし、「地味だからちょっと派手に録ろう」という考えから「この落ち着きが必要な場面がある」へ理解が変わったという感覚はあります。
録った瞬間のインパクトではなく、曲に合わせてマイクを選ぶようになると、このマイクの立ち位置が分かりやすくなりました。
気になるところ:分かりやすい「良い音」を求めるなら別の選択肢もある
TLM 67の短所を無理に挙げるなら、長所とまったく同じ部分です。
最初から派手で完成された音ではありません。
87系のような、録った瞬間からキャラクターが前に出て「おお、格好いい」と感じる方向を期待すると、TLM 67はかなり地味に感じると思います。
そのため、高価なマイクを初めて購入する人に対して、
「これを買っておけば、何も考えなくても全部簡単に格好良く録れます」
とは言いにくいです。
音の良し悪しというより、求める方向が違うかもなあと感じます。
こんな人には向いている
TLM 67を積極的に選びたいのは、
- アコースティックな楽曲をよく録る
- オーガニックな質感を大切にしたい
- 派手さより落ち着きや艶を求める
- ボーカルだけでなくアコースティック楽器にも使いたい
- マイクプリとの組み合わせも含めて音作りしたい
といった人です。
とくに「録った瞬間の派手さ」より、楽曲全体の空気感を重視する人には面白いマイクだと思います。
逆におすすめしにくい人
逆に、
- 最初から派手で格好いいボーカルサウンドが欲しい
- とにかく簡単に扱える高級マイクが欲しい
- バキバキのロックや密度の高いトラックが中心
- 1本目の高級マイクとして、とにかくスタンダードな方向を求めている
という場合には、TLM 67だけに絞らず、ほかのマイクも比較したほうがいいと思います。
もちろんロックを録れないわけではありません。
ただ、「なぜTLM 67を選ぶのか」が明確でないのであれば、もっと分かりやすい選択肢はあると思います。
今あらためてTLM 67を買うか
ここはかなり悩むところです。
現在は僕が購入した頃よりかなり高くなったという印象があります。
そのため、
「高級マイクが欲しいなら、とりあえずTLM 67を買えばいい」
とは思いません。
アコースティックでオーガニックなサウンドを求めていて、この落ち着きや艶が明確に欲しいのであればこれです!
ただ、
「無難に歌を綺麗に録りたい」
「もっとスタンダードで扱いやすい、良い音が欲しい」
というだけなら、ほかのマイクを選んでもいいと思っています。
価格が上がった現在だからこそ、なおさら「Neumannだから」「高級だから」ではなく、このマイクのキャラクターが本当に必要なのかを考えて選ぶべきだと考えます。
まとめ
安定感があり、落ち着いていて、太く、少し艶がある。
派手に音を作り込むのではなく、そうしたTLM 67の土台を残しながら、楽曲やマイクプリによって方向を決めていく。
そこがこのマイクの面白さだと思っています。
87系のような「録った瞬間から格好いい」という方向とは違います。
だからこそ、どちらが上という話でもありません。
アコースティックな曲やオーガニックなサウンドを中心に録るのであれば、TLM 67には代えがたい魅力があります。
一方で、単純に「高いマイクを1本買って、簡単に良いボーカルを録りたい」という目的なら、現在の価格を考えるとほかの選択肢も含めて検討したい。
TLM 67は万人向けの正解というよりは、この落ち着きと艶が必要な人が選ぶマイク。
というのが3〜4年使ってきた今のところの僕の評価です。